大切なものは

第 31 話


「条件?いい加減にしろ!」

スザクが、冷たく低い声で言った。恐ろしいほどの殺気と共に。

「いい加減にするのはお前だスザク。この程度の嫌がらせで諦めて死を選ぶつもりか?・・・いいか、これを仕掛けた相手は甘い。これが俺とお前二人だけなら・・・まあそうだな、今回の作戦の勝率は五分五分と言った所だったが、ロイドたち技術者がいて、更には騎士が二人もいる。KMFは無傷で武器も俺の予想よりも充実しているし、まさか食料をこれだけ残していたとは驚きだ。これだけ条件がそろっていれば負けなどあり得ない。それなのに、おまえは何故諦めている?」

平然と言われた言葉に、皆は目を見開いた。

「勝てる、と言うのか、この状況で」
「ああ、余裕だな」
「分かっているのか?エナジーも、」
「全て把握している。エナジーを減らし、武器弾薬や食料を減らし、爆音の警報をセットした。幸い、それだけで済んだからな。ランスロットが修理不可能だったら、面倒な事になっていたが、それもない」

何故武器弾薬を手持ち分の僅かな量とはいえ残したのか。こちらに悟られないためとは言え食料をあれだけ残したのか。なんぜこんなに甘い。いや、違うな。

「・・・なるほどな、これを仕掛けた相手は、万が一俺たちが運良く生き残った時の為に、わざとある程度の物資を残したのか。俺たちに、殺し合いをさせるために」

今あるのは全員で3日分の食糧だが、一人でなら。エナジーも、さっきのスザクではないが一人で逃げ帰る事を考えれば、いくらか希望が持てる量だ。銃火器は、殺し合うための道具。

「だが、その下らない思考が、我々を勝利に導いた訳か、皮肉なものだな」
「・・・本当に、勝てるのか?」
「当然だ。スザク、俺を誰だと思っている?」

探るような問いに、ジュリアスはふてぶてしく笑い答えた。
そう、ここにいるのはルルーシュ・ランペルージでも、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアでもない。仮面の反逆者ゼロだ。超大国ブリタニアに牙をむき、戦争を仕掛け、何度もブリタニアに土をつけた男。
だが、いまのルルーシュにはギアスはない。
ゼロの起こした数々の戦績は、ギアスがあったからこその物。
人を操り支配するギアスが無ければ成しえなかったもの。
・・・そのはずだ。

「俺は確かに、最も強力な武器を無くしたが・・・」

右手で眼帯を抑える。それは、ギアスを指している。

「所詮武器は武器。持ち運びに困らず、使い勝手は良かったが、使いどころも難しい武器だった。それを失ったのは確かに痛手ではあるが、それだけだ」
「武器・・・」

あれを、武器と言うのか。
卑劣な悪魔の力を。
アレがあったから、超大国に牙を向けるなど大それたことが出来たというのに。

「俺の最大の武器はまだここにある」

そう言って示したのは頭。頭脳。
ジュリアスとスザクのやり取りは、周りから見れば意味のわからないものだっただろう。だが、隻腕隻眼となることで、戦うための力を失ったが、その頭脳は健在なのだと言っている事だけは解った。

「先に言っておくが、事前に伝えていた作戦は全て忘れろ。資料にも細工がされていた。あのまま行けば、こちらも痛手を受ける所だったな」
「資料にまで・・・」

エナジーなどの物資を入れ替え、盗むぐらいなら簡単ではないが外部の物の可能性はあった。だが、軍事資料までおかしいとなると、これを仕掛けたのは軍関係者。しかも、ラウンズの資料に触れる権限を持つ大物だ。一体、自分たちの敵はどれほど強大なものなのだろう。
・・・頭に浮かぶのは皇帝の顔だった。

「だから、正直言えば助かった。エナジーを抜いたりと小細工をしてくれたおかげで、こうして最悪の事態は免れた」

全ての状況を疑い、調べるという状況がうまれた。
だから感謝しよう、余計な細工をしてくれた事を。
そして同時に自分の甘さに腹が立った。
ブリタニアの用意した資料を信じてしまうとは何たる失態。
ラウンズに用意された資料にまで手を加えないだろうと、全ての情報を信じてしまった。鵜呑みにしてしまった。その情報を元に作戦を立ててしまった。本当に正しい情報なのかを調べる作業をおろそかにしてしまった。ゼロであった時はしていた当たり前の事を、何故ここでいなかったのか。

そうだな、認めよう。俺は、信用していたのだ。
ブリタニアを、ブリタニア軍を。
統制のとれた軍、正確な情報とそれを基軸にした戦略を。
それらは、黒の騎士団には無かった物。
ディートハルトや藤堂と言った優秀な人材は手に入れたが、それらの情報が罠ではないのか、それらの作戦にミスはないのかすべて調べ裏を取り訂正を加えていた。どれほど経験を積もうと烏合の衆であることには変わりなく、だから全てを管理することでブリタニアと戦えるレベルに引き上げていた。
それをしなくていいのだと、訓練された組織なのだからと無意識に思ってしまったのだ。頼ってしまったのだ。愚かだ。あまりにも愚かな思考。
敵の間抜けさに心から感謝する。
おかげで自分の置かれた状況を、早い段階で正確に理解する事が出来たのだから。

「・・・でも、エナジーは尽きる」

どんな作戦を考えているか解らないが、エナジーが尽きればKMFはただの鉄の塊だ。戦えない。スザクはそう主張した。だが、そんな事は些細な問題だった。むしろこの程度の事で動揺し、ここまで内部が崩れる事にルルーシュは呆れていた。常に潤沢な兵器のあったブリタニア軍と物資が全くない状態が当たり前だった黒の騎士団では考え方が違うのだから仕方がないのかもしれないが・・・この状況、玉城でもここまで取り乱すことはないはずだ。多分。
そう考えながらルルーシュは視線を上げた。


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